感情を沸き立たせるDIYプロダクト〜考える種を蒔く第1回 グラフィックデザイナー佐々木拓人

こんにちは! それからデザイン代表の佐野彰彦です。
「デザイナー」という肩書きで仕事をしていると、クライアントから度々、「自分はセンスがないのでデザインのことはよくわからないのですが・・・」というようなことを言われます。
たしかにデザインをつくる上で、ひらめきや感性、美的感覚というような、いわゆる「センス」といわれるようなものが必要な面もあります。しかし、それはデザインのごく一部のことで、私はデザインを「伝える仕組みをつくること」と考えています。

たとえば、「AならばB、BならばC、ゆえにAならばC・・・」というように言葉だけで論展開を繰り返すより、ひとつの形や絵で示したほうが、一発で伝わるということが多々あります。

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上図の例は、「ものごとの関係性のビジュアル化」という仕組みです。このような伝わり方の変化を意図的にコントロールできることが、デザインの醍醐味のひとつです。

そこで、いわゆるデザイナー(グラフィックやプロダクトやウェブをつくる人等)に限らず、伝えること、解決することなどの「仕組み」をつくっている人を広い意味での「デザイナー」と捉え、様々な業界で活躍中の人をお招きして、その人の脳内を探っていこうというイベントを企画しています。
それが、「これからのデザインの在り方」を共に学んでいくトークイベント「考える種を蒔く人」です。TURN harajukuにて、マンスリー開催しています。新しいビジネスを生み出している人や、既存の枠組みにとらわれない活動をしている人など、わたくし、佐野彰彦が「この人の話を聞いてみたい」という人に声をかけ、佐野が聞き手となって、ビールを片手にトークセッションをしています。

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第一回は、株式会社コンクリエイトデザインの代表、佐々木拓人さんをお招きしました。
佐々木さんは、グラフィックデザイナーとして活躍しながら、オリジナルDIYプロダクトブランド「PINK FLAG」を主宰。DIYプロダクトの企画〜製造〜販売までを全て佐々木さんが手掛けています。
前置きが長くなりましたが、その第一回「考える種を蒔く人」で、佐々木さんに伺った話を一部レポートしたいと思います。

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空間の中に柱をつくるプロダクト「PILLAR BRACKET」

佐々木さんとの出会いは、もうかれこれ10年近く遡るのですが、共有の友人がいてその友人がやっているバンドのCDやフライヤーのアートワークを佐々木さんがやってました。すごくおしゃれで愛着のあるデザインをする人だな、と思っていたのですが、その後、ベネッセコーポレーションの新規事業の仕事で、ロゴとウェブを佐野が担当し、パンフレット等のグラフィックを佐々木さんが担当するという機会があり、再会したという感じです。

その時に、佐々木さんがグラフィックデザインと別に「PINK FLAG」というプロダクトデザインの活動をしていることを知って、とても興味を持ちました。空間の中に柱をつくるプロダクト「PILLAR BRACKET」は、特に大人気アイテムとなっているようで、製造が追いつかないこともあるとのこと。インスタグラムでDIYユーザーがこぞって画像をシェアするなど、PINK FLAGのファンが拡大しています。

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「PILLAR BRACKET」は、ツーバイフォーの拡大にはめ込む金属ユニット。誰でも簡単に空間内に“突っ張り棒”をつくることができる。
  

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壁や天井に穴を開けることもなく、簡単に棚をつくることができる
  

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有孔ボードを組み合わせれば、引っ掛け型の壁収納にもなる。DIYユーザーのアイデア次第で使い方は様々
  

デザインそのものの価値ではなく、価値を生むためのデザイン

佐々木さんは、グラフィックデザイナーとしての仕事と並行し、このようなプロダクトを企画製造、流通、販売までを行っています。
グラフィックデザイナーが、自分で商品企画をして販売をすること自体は珍しくはありません。たとえば、自分のデザインしたイラストやエンブレムをTシャツにプリントしたり、ポストカードやマグカップなどをつくってECサイトで売っているデザイナーも多いです。
しかし、佐々木さんのやっているDIYプロダクトは、それとはだいぶ違います。
たとえば、Tシャツにワンポイントをつけても、「Tシャツという機能」は変わりません。ポストカードやマグカップも同様です。そして、それを購入する人は、おそらくTシャツが欲しいわけではなく、付け足したワンポイントが気に入ったか、元々そのデザイナーのファンという理由で購入するはずです。

一方、PINK FLAGのプロダクトは、それを使って何をするのか、というところまでがデザインされているように感じます。「こんな棚をつくろうかな」「こんな風に使えばうまくいくかな」というような想像力が掻き立てられます。つまり、ユーザーがそれをどう使うか、どう楽しむかは、ユーザー側に委ねられている。佐々木さんは「モノをつくるときは、デザインを通じて、人の感情が動くものをやりたい」と言います。

【PINK FLAGコンセプト】
ワクワク、ウズウズ、モヤモヤ、ドキドキ、キュンキュン。「DO IT YOURSELF」な行動を起こすために必要なそんな様々な感情。そんな感情を沸き立たせることの出来るモノを。「DO」の中に「THINK」も「CREATE」も、「FAIL」さえも内包されている、そんな「D.I.Y.(DO IT YOURSELF)」を!

デザイナーの中には、「自分のデザインはこうだ!」と主張したがる人も多いですが、佐々木さんの言葉はデザインの本質を語っているように思います。デザインを通じて人の行動が変わる、これこそが、デザインの価値であるはずです。その意味においてデザインは、「黒子的存在」ともいえる気がします。

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流行のDIYブームではなく、本気のDIY

DIYは今、ひとつのムーブメントとなっており、「DIY女子」という言葉も出てきたりなど、一昔前の「お父さんの日曜大工」の世界から、ファッションアイコン的な流行にもなっているようです。
有名なライフスタイル誌などでも、たびたびDIY特集をやっていますし、実際にDIY関連のアイテムはよく売れているという話も聞きます。しかし、佐々木さんはそのようなムーブメントに対しては冷静に距離をとっています。その姿勢は、「PINK FLAG」というネーミングにも現れています。

「PINK FLAG」は、1977年に発表されたポストパンクバンド「WIRE」のデビューアルバムのタイトルから付けられているとのこと。実は私もWIREはたいへん好きなバンドのひとつです。

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WIREは、ほとんど楽器を触ったことのない初心者4人で結成されたバンドで、この「PINK FLAG」は、ほとんどの曲が1〜2分、究極的にミニマルな構成の曲ばかりの作品。演奏はガチャガチャでありながらも、これまでのロックやパンクのフォーマットにとらわれない、自由な発想の音楽は、後のアーティストに多大な影響を与え続けています。
このPINK FLAGに込められた、究極のDIY精神。佐々木さんの目指すDIYが、流行でおしゃれな文化とは一線を画していることが、そのブランドネームからにじみ出ています。

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発売以来、クレームなし、広告費なし

PINK FLAGが製造販売している商品には、パッケージの裏面に少しだけイラストで取り付け方が書かれていますが、それ以外の使い方の説明や取説らしいものはありません。私も自宅の一室にPILLER BRACKETで書棚を作ったのですが、はじめはどのように固定したらいいのか、木ネジのサイズはどのくらいのものを用意すればいいのか、迷いながら作業しました。それでも、発売以来、一度もクレームらしいものはないといいます。
現在は、PINK FLAGのWebサイトで購入できるほかは、恵比寿のPFS PARTS CENTERでのみ店頭販売をしているとのこと。ホームセンターなどからも頻繁に引き合いがあるけど、流通させていないそうです。PINK FLAGのコンセプトに共鳴しているユーザーに、しっかりと届けていくということが、流通チャネルの選択にも徹底されているのでしょう。
このような考え方から、PINK FLAGは、「出会いたい顧客と出会う」ということが実現できており、クレーマーに変貌するようなアンマッチな顧客をフィルタリングすることに成功していると考えられます。
これは、ブランディングとも共通する考え方で、いかにコンセプトを軸にして、ビジネスアクションを取捨選択できるかが大切であるかを示している事例ともいえます。

また、驚くことに、発売以来、いわゆる広告宣伝費は一円もかけていないとのこと。最近はPINK FLAGが雑誌で紹介されることも増えていますが、タイアップ広告等ではなく、すべて取材だそうです。SEOやリスティング広告なども一切やっておらず、それでも自社サイトから注文が入り続けているといいます。
実際、佐々木さんと話をしていても、マーケティング的な会話は一切出て来ませんし、質疑応答でも、これからのビジネスや売り方はどう変化していくと思いますか?という質問に対し、「売るための方法とか、ノウハウとか、一切興味ない」とバッサリ言ってます(笑)。

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PINK FLAGの活動から見えるウェブブランディング

でも、PINK FLAGの商品は売れています。なぜでしょうか。
そこにはやはりブランディング(とも言える筋道)がしっかりあるからだと考えられます。PINK FLAGのサイトは、本人が自作され、管理運営も自分自身で行っていますが、私が考える「ウェブブランディング」の概念に合致したものとなっています。以下が、ウェブブランディング概念図です。

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ウェブブランディング概念図。真のブランディングとは、上図のように、縦軸と横軸の両方を貫くことで成立する
  

まず、企業理念〜ブランドコンセプトは、先ほどご紹介した通り非常に明確です。それを体現した商品がPILLER BRACKETをはじめとしたDIYプロダクトにしっかりと落とし込まれています。

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ウェブブランディング概念図の縦軸の3つ目にあたるのが「事業・商品・サービス」。ブランドコンセプトがしっかりと商品・サービスに体現されていることが重要。PINK FLAGの商品群は、ブランドコンセプトがまさに結実したもの。左:PILLER BRACKET、右:TABLE LEG HOLDER。
  

そして、佐々木さん自身はグラフィックデザイナーですから、ロゴタイプをはじめとしたVI(ビジュアルの定義)も明確です。

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ロゴタイプは商品ごとに統一されており、カラーバリエーションで展開している。
ポップなセリフ体をベースにさりげない装飾はDIYの楽しさを感じさせ、商品の性格を分かりやすくポジティブに表現したVIとなっている。これは、ウェブブランディング概念図の縦軸の4つ目にあたる。

  

そして、ブランドコンセプト、商品の特長や魅力、定義されたVIを余すところなくウェブサイトへ落とし込んでいます。PINK FLAGの伝えたいことがウェブサイトを通じて、魅力的に届けられています。つまり、「ウェブブランディング概念図」の縦軸を貫通制覇しています。

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佐々木さん自作のウェブサイトには、PINK FLAGのコンセプトや想い、ユーザーが取り組んだDIY事例などが掲載されており、世界観がダイレクトに伝わる。佐々木さんはWebデザイナーではないため、UIや構造には使いにくさがあるが、ブランディングの観点では本質を射抜いているサイトだ。
  

さらに、ウェブサイトを軸に、パッケージ、フライヤー、SNS(Instagram、facebook)などのツールに横展開され、コミュニケーションが拡散されています。

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パッケージも、統一されたデザインで、PINK FLAGブランドを認識しやすい仕掛けになっている。ウェブブランディング概念図の横軸展開にあたる
  

PINK FLAGは、佐々木さんたった一人でこれをやることができているとても珍しいケースですが、このウェブブランディングの概念と照らしあわせてみると、「広告は一切やっていないのに、ファンがつき、売れていく」ということの理由が垣間見えるはずです。
  

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デザインとは、関数のようなもの

「デザインとは、関数のようなもの」と佐々木さん。
デザインを媒介として、新しい価値が生み出されていく。まさにPINK FLAGが実現している世界を言い表している言葉だと思いました。
佐々木さんのデザインは、本人の生き様そのものであり、それがそのまま熱量になってユーザーに伝わっているのだと感じます。

佐々木さんのように、デザイナーでありながら熱い想いを持つ経営者は、純度高くたった一人でそれを実行できますが、そのような人は非常に稀です(笑)。これからのデザインの在り方を考えるとき、私たちデザイナーは、熱い想いを持った人の伴走者として、経営やビジネスを理解し、デザインを提供していく必要があります。
そして、そのデザインとは、新しい価値を生み出す「関数のようなもの」でなくてはならないのです。

佐々木さん、貴重なお話をありがとうございました!

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2016-06-18 | Posted in ブランディングのことComments Closed 

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