内側から滲みだすブランド / 株式会社ミズキ

昨年手がけたブランディングプロジェクトの事例のひとつ、株式会社ミズキさんに訪問してきました。ミズキさんは、精密ネジやシャフトの製造を手がける創業70年を超える老舗の部品メーカー。現社長の水木太一さんは三代目で、他社メーカーでキャリアを積んだのち、後継者として現職についていらっしゃいます。

水木社長から私のところにメールが来たのが、2014年7月頃。株式会社ミズキは精度の高いネジの製造技術で海外市場への進出を計画しており、多言語対応のウェブサイトが必要だということで、制作会社を探していらっしゃいました。
その際に、中小企業の海外進出の支援をしている機関の方から、拙著「ウェブ担当者1年目の教科書」を紹介してもらったとのこと。水木社長から直接連絡をもらい、メールで何度かやりとりをさせていただいたのですが、「とても誠実で、真面目な社長さんだなぁ」という印象でした。
実際にはじめてお会いしたときもその印象のままで、自社の経営計画、ストロングポイント、ウィークポイント、直近10年の売上推移などを丁寧にまとめた資料を持参してくださり、課題と目標が実に明確にされていました。これまで様々な経営者の方と仕事をしてきましたが、この丁寧さは過去にないくらいでしたので、私は直感で「この会社はすごく伸びる、絶対に良いプロジェクトになる」と確信したのでした。

去年の夏からはじまって、ウェブサイトの公開に至ったのが10月末でしたので、多言語対応のウェブサイトについては約4ヶ月間の制作プロジェクトだったのですが、現在は引き続き、名刺と封筒、スーツに認める社章まで!、CIを統一していこうということで、ブランドプロジェクトとしては続行中です。

株式会社ミズキのブランディングにおいて、私がまず取り組んだことは「いいところ探し」でした。日本全国、ネジやシャフトを製造する会社は無数に存在します。その中で、ミズキという会社の素晴らしいところ、他社にはないところ、独自性の高いところなどを徹底的に発見していくことです。弊社のディレクターの永井とともに、何度も工場にも足を運び、社長だけでなく、現場の社員にも話を聞くという、とてもアナログで人海戦術な手法です。

話は少し変わりますが、現在の日本の産業の中で、製品のスペックにおいて圧倒的に秀でたり、他社がコピーできないような独自性の高い技術というのは、ほぼなくなっていると感じます。あらゆる産業が成熟している中で、真面目な日本の中小企業は、大抵において「性能のよい製品」をつくっています。もちろん「差」はありますが、それは買い手にとっては微々であることがほとんどです。
ネジやシャフトの製造業においても、各社の品質の差はもちろん存在しますし、その中でも株式会社ミズキは、不良品を出さないという製造管理と品質においてはとても優秀な会社です。しかし、「ブランディング」を考えた時、ミズキの本当の価値を伝えようとした時、果たしてその「製品のよさ」をフォーカスすることが優先されるべきなのか。それで競合他社との差を伝えることができるのか。ミズキの価値を本質的に伝えるということは、どういうことなのか。
ありきたりのコンテンツをさくっと多言語ページに翻訳することではなく、「株式会社ミズキの本当の価値」を考えぬき、道筋を提示することが、このプロジェクトにおいての私の役割でした。

社内ブレストと、水木社長を踏まえての打ち合わせを通じて、ひとつの答えに行きついたのが「人にフォーカスする」ということでした。株式会社ミズキは、語弊を恐れずに言えば、「普通の町工場」です。規模の大きな部品メーカーではなく、イノベーションを起こすような特許技術があるわけでもない、一見どこにでもある会社です。しかし、国内外の大手メーカー担当者から、信頼を集めている。その理由は、決して目立つことのない日々の努力の積み重ねであり、古きよき日本の町工場が脈々と受け継いできた「誠実な仕事ぶり」に他なりません。日本の伝統でもある「誠実さ」が、果たして中国やアメリカに「ブランド」として通用するのか。
ミズキならではの誠実なエピソードをコンテンツ化し、世界に発信する。同時に、社内のスタッフにもそのコンセプトを周知していくことでインナーブランディングを実施する。これが今回のプロジェクトの挑戦でもあり、ミッションでもあったのです。

 
 
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企画の提案時に、コンセプトワードを設定。「日本発、世界に通用する部品メーカー」は元々、水木社長の経営計画書の中に出てきた言葉を抜き出して採用に至りました。
ウェブサイトの納品時に、コンセプトワードをポスター化し、社内に掲示していただくことに。

 
 
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応接室に貼られているポスター。

 
 
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社員食堂の一角にも。
水木社長のお話では、採用面接に来た人もポスターを目にしていくため、会社の目指している姿を伝えることに、一役買っているとのこと。また既存社員のモチベーションアップにもつながり、多くのシナジーを生んでいるといううれしいお言葉もいただきました。

 
 
中小企業のブランディングは、その企業の今現在ではなく、未来のポジションを見据えることが欠かせません。そのためには、現在の強み・弱み、どんな製品が売れていて、どんな製品が苦戦しているのか、どんな困り事があるのか、など、まずは全てをオープンにして共有いただく必要があります。しかし、このことは実はとても難しいことです。なぜなら、いくら関与先とはいえ、初対面の相手に自分の会社の長所はまだしも、欠点や、弱み、売れていない理由などをいきなり話すことに精神的な抵抗があるのは当然だからです。
クライアント企業のブランディングを行うということは、そもそもその会社の社長から全幅の信頼を得なくてはなりません。「この人と一緒に課題を解決したい」と思っていただくような度量が必要で、そのためには人間性やリーダーシップのようなものを磨かなくてはならないと、私は常々感じています。いくら知識があっても技術があっても、それだけではダメ。本当にここが一番難しいところ…。

ところが水木社長は、私の心配をよそに、はじめからとてもオープンマインドでした。年下の私にも常に低姿勢で、それは私の度量ではなく、水木社長の人間性に依るもので、逆に「きっとこの人は、すべてお見通しなんだろうな、しっかりとした仕事をしなくては!」と身が引き締まる思いがしたのを覚えています。

ブランドデザインは、表層的な部分にキレイなお化粧をして、「ハイ!かっこ良くなりました」というものでは成立しません。経営者の課題にどれだけ向き合ったか、どれだけ深く親身に考えたかが如実に現れます。そしてそれをブレイクスルーさせるアイデアや発想力も必要不可欠です。
最近は、ブランドブームで、地方活性事業なども度々メディアで取り上げられたりしていて、それはそれで良い面もあるのですが、どうも表層的でひとりよがりなデザインも目にするので、正直私は、ブランドブームは迷惑だなぁ、と思っています。
企業の課題や、本質的な価値に向き合うことは、すごく時間も労力もかかります。デザインを納品してお金をいただくのがデザイナーだとすれば、本来、ブランディングほど効率の悪いビジネスはないのです。表層的に仕上げて短時間で納品する方が、ビジネスとしては効率がよく、そのことは、実は私自身も常にジレンマでもあります。

しかし、私も水木社長のように、コンセプトをしっかり持った仕事をしていきたいと思うのです。それは、一過性ではなく、本質的な価値を持つ仕事を続けることで、「ブランドが内側からにじみ出る」と考えているからです。
中小企業のブランディングという仕事をしていると、人生経験が豊富な社長にたくさん巡り合います。私のようなアラフォー世代はまだまだケツが青いのだ、ということを日々痛感させられています。

2015-04-22 | Posted in ブランディングのことComments Closed 

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