商流に逆らうデザイナー

こんにちは。デザイナーの佐野彰彦です。

2017年グッドデザイン賞の大賞に、YAMAHAが開発した新プロダクト「Venova(ヴェノーヴァ)」が選出されたとのこと。「楽器」というプロダクトがデザイン賞のトップに選ばれたことは、デザインと音楽に多少なりとも関わってきた私にとって、嬉しくもあり、興味深いことでもあります。さらにYAMAHAは私の古巣でもあるからなおさら。

Venova(ヴェノーヴァ)は、“これまでにないアコースティック楽器をデザインする” をコンセプトに開発された「カジュアル管楽器」。ソプラノリコーダーに近い運指で設計されていて、気軽に演奏を楽しめるというもの。楽器を本格的に演奏していない人を対象としたカジュアル楽器は、フェルナンデスのヒット作のZO-3ギターなど、これまでも様々なメーカーが開発しているので、コンセプトが特別目新しいわけではない。ただ、「カジュアル」というキーワードから生まれるデザインは、楽器というよりも玩具に近いポジションとなることが多い。結果として生まれるプロダクトは、ややもすると“偽物っぽさ”に陥る危険を孕んでもいる。その点で、このVenovaは、とてもよく考えられたデザインだと感じました。

YAMAHA「Venova(ヴェノーヴァ)」
 
 

まず、軽やかさと重厚さの絶妙な同居を実現させていること。カジュアルでありながら、おもちゃではない“楽器”を感じさせるフォルムの不思議な感触。これは相当に熟慮を重ねたはず。

ロゴとプロダクトが、一貫したデザインコードで表現されているブランドデザインは、本当に見事。デザイナーが商品開発から関わっているからこその、説得力の強いプロダクトだと思う。やっぱりインハウスのデザインチームが全部やっているものはいいなぁ、と。
 
 

話は飛躍しますが、株式会社それからデザインでは、大きく分けると2つのビジネスを持っています。ひとつは、企業から依頼を請けてデザインを提供する受託ビジネスと、自社で企画開発したサービスを提供する自社ビジネス。私にとっては、どちらも、コンセプトを設定し、それを事業や製品やサービスに落とし込みながらデザイン化していくという点で、同じロジックだという認識でこれまでやってきました。ただ、経済のルールやお金の流れという切り口で見ると、2つのビジネスにおいて、デザイナーの立ち位置は現実には大きく異なります。

前者の受託ビジネスとしてのデザイン業は、デザイナーは当然ながら「外部デザイナー」となります。外部デザイナーが受託で参加するというプロジェクトは関わり方が部分的になりがち。経営や事業の戦略部分まで顔を出していくためには、いわゆる下流工程での「実績」が必要になる。まずはグラフィックやウェブなどのいわゆる制作フェーズでの声掛けが圧倒的に多いため、本質的なデザインを行うためには、そこからボトムアップしていくことが求められます。正直、これは非常に骨が折れる。

一方で、自社のビジネスは風通しがいい。コンセプトも開発もアウトプットも全行程にデザイナーとして思いっきり能力を発揮できます。こうして生まれるプロダクトは、市場にどう評価されるかを事前に予測することは難しい面があるけど、経済やマーケットの視点のみで発想されているものを大きく超える可能性を持つ。いわゆるプロダクトアウトかマーケットインか、という話にも近いけど、私の言いたいことはそれとは少し違います。やりたいことベースの単なる猪突猛進ではなく、「デザイン」という専門性が上流工程から発揮された上で生まれるプロダクトは可能性(ポテンシャル)が違うということ。

本当は、受託だろうと自社だろうと、デザイナーが外部だろうと内部だろうと、「デザイン」というものの役割や意義をそのビジネスに関わる人が理解していれば、関係性や商流によって役割が変わるということはないはず。それが私のデザイナーとしての信念でもあります。

ただ、今の日本のモノづくりは、過去のデータを最大限に信用することで、マーケットを分析し、確実にヒットを打つことに躍起になっている面があるような気がします。または、コンサルティングやマーケティングの領域のみで「戦略」を語り、デザインは「感性」だという決めつけのもと進行するプロジェクトが多いとも感じます。

だから、現状では、今回のYAMAHAのように、インハウスのデザインチームが主導となる開発ならうまくいくこともあるのかもしれない。しかし、中堅・中小企業のように内部でデザイナーを抱えていない組織の場合はそれは不可能です。だから、中堅・中小企業の経営者も、そして残念ながら下流工程のみの活動で停滞しているプロのデザイナーも、戦略的なデザイン、体系的なデザインを学び、商流にとらわれなくなることが、今の日本には必要だと思っています。

もしくは、デザイナーが自社プロダクトを開発して、自分でビジネスをするのも大賛成。どちらかと言えば、日本の商流習慣が面倒くさいなとか思ってしまうことが多いので、私はそっちの方が向いているのかもと思ったりもしないでもないのですが。
 
 

セミナー情報

2017年11月7日(火) 19:00〜
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2017-11-02 | Posted in デザインのことComments Closed 

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