ウェブで集客するということ

こんにちは、デザイナーの佐野彰彦です。

Windows95が発表されたのが1995年。それ以降、急速にインターネットの利用が一般生活者にも身近になりました。一方、中小企業や小規模事業者が、自社のウェブサイトを立ち上げる動きが目立ってきたのは、少し遅れて2004〜5年のことだったように思います。
インターネットの登場前後で、個人の生活のみならず、ビジネスのあらゆる常識やルールが塗り替えられてきたことは、みなさんの実感する通りです。そして今、2017年。今回のそれからデザイン通信では、ウェブの歴史を10年単位で振り返りながら、企業が「ウェブで集客すること」について考えてみたいと思います。
 
 

「魔法の箱」という誤解を解くこと

ウェブの歴史を語る前に、僭越ながら私個人のキャリアを振り返りたいと思います。私は、2004年にヤマハ株式会社の子会社にあたるデザイン会社を辞め、「フリーランスのウェブデザイナー」として活動をはじめました。前述の通り、2004〜5年は、多くの中小企業が積極的に自社のウェブサイトを立ち上げようとしていた頃です。当時は、いわゆる「ウェブ制作の専門会社」はさほど多くなく(今の状況からすれば信じられないですが)、グラフィック系デザイナーやシステム系エンジニアが「ウェブもついでにつくります」という形で請け負っており、みんなインターネットやウェブに、大きな期待感を持っていながらも、その受け皿は十分でない時代でした。

私は、独立後まもなく、名刺をつくり、知り合いを中心にフリーのデザイナーになったことと、ウェブサイト制作の需要があれば相談に乗りますよ、と言いながら回ったところ、仕事はすぐに入ってきて、あっという間に忙しくなっていきました。独立のタイミングがよかったと今振り返ると思います。

当時は多くの経営者がウェブサイトに対して「自動的に集客してくれる魔法の箱」としての期待を持っていました。大企業でなくても、営業マンを雇わなくとも、高額な広告費を払わなくとも、インターネットを通じてホームページがお客さんを連れてきてくれるのではないか。そんな感覚にワクワクした人も多いと思います。

ところが、当然ながら「魔法の箱」はつくれるものではありません。ウェブサイトは、デバイスとしては世界中の誰もが見ることができますが、それは世界中の人から注目を集めることとは意味合いが異なります。ですので、私はまずウェブサイトをつくりさえすれば魔法の箱が手に入ると期待している人の大いなる誤解を解くことと、ウェブサイトで成果を生み出すための実践方法を身につけていくことが重要だと考えるようになったのです。
 
 

SEOの悲喜交交

2004年は「SEO対策」という言葉を、中小企業の経営者やマーケティング担当者も口に出すようになった頃です。当時、検索といえば、国内の圧倒的知名度は「Yahoo!JAPAN」で、企業ウェブサイトもYahoo!JAPANの検索結果にヒットすることこそが、至上命題のように語られていた時代です。当時のYahoo!JAPANは、ディレクトリ型検索エンジンを採用していたため、現在のGoogleのようなロボット型検索エンジンとは異なり、Yahoo!への登録申請を前提とした、「Yahoo!の中の人が順位を決める」という要素が少なからずありました。企業のウェブサイトやECサイトなど、ビジネス目的のウェブサイトは、「Yahoo!ビジネスエクスプレス」という有料の登録申請サービスがあり、それを活用することで、大きなSEO効果も見込めた時代です。

2000年代の前半は、外部リンクやMETAタグ等をはじめ、その他にもあらゆるSEOテクニックがたしかに存在しており、「検索エンジンの裏側」の知識を有する人が、自分のビジネスを有利に進めることができたことも事実です。私自身も、この時期はSEO対策の研究に没頭しました。そして、実際に多くのクライアントへ「ウェブ経由で売上アップ」という結果を提供してきました。

ところが、「SEO対策」は、インターネットやウェブに関する一定の専門性が必要ということから、クライアント自身がその仕組みを深く理解することが困難です。結果として、「よくわからないものを依頼せざるを得ない」というブラックボックス化が起こります。この隙間をビジネスチャンスと捉えて発展していったのが、いわゆるSEO対策を専門とする業者の存在です。この隙間こそが、今もなくならないSEO業者と企業の間にある根源的摩擦の要因でもあり、ウェブマーケティングの周辺を常に「わかりにくいもの」にしてしまっている、と私は考えてきました。
 
 

SEOの発展と終焉

時は進み、検索エンジンはYahoo!からGoogleへと主導権が渡っていきます。時代が大きく動き出したのは、Googleの掲げる「最も優れたウェブサイトを上位に表示させる」という至極まっとうなミッションです。私自身はこのミッションに大きく賛成の立場を取ってきました。なぜなら、よくない会社、よくないビジネスを上位に持ち上げるためではなく、素晴らしい会社やビジネスを支援していきたいと考えてきたからです。検索エンジンの裏を知ることは、その裏の中にある盲点を悪用するということではなく、本質的な仕組みを理解し、正攻法で世に伝えていく強さを手にすることだと考えてきました。
そして、今、Googleのミッションは着実に進められ、過去のSEO手法が通用しなくなり、SEO市場そのものが縮小しています。その変遷を象徴するニュースが「Yahoo!ビジネスエクスプレスのサービス提供終了」ではないでしょうか。かつてSEO対策の代名詞的存在であった同サービスの終了は、SEO文化そのものの収束を意味することでもあるように、私は感じました。

私自身はSEO対策は必要なものではあるけれど、それをビジネスにすることは自分の美学に反すると考えてきました。理由は2つあります。ひとつは、私たちはデザイン会社であることです。よいものを可視化して伝えることがデザインですから、クライアントにとってブラックボックスの極みであるようなSEOそのものを商品化することはそれに反すると考えてきました。そしてもうひとつは、自分だったらSEO対策にはお金は払わないからです。検索エンジンのテクニックの上に成り立つビジネスは「砂の城」だと思うからです。SEOは必要最低限を自分で学ぶことで十分、あとは商品・サービスの価値を磨くことが経営の本質だと考えています。
 
 

企業のメディア化、発信力が差を生む

2004年にフリーのデザイナーとして独立し、2007年に法人化、それから10年が経っています。しっかりとは数えていないですが、規模の大小はさておき、これまで関わってきたウェブ制作のプロジェクトは、300を超えると思います。クライアントの数でいえば、おそらく100前後かな、というところです。その中で、全く成果(ウェブを通じた売上や反響)がなかったというプロジェクトはないはずです。しかし、長期的な視点になると、正直に言えば、継続的に成長する企業と、伸び悩んだり頭打ちになる企業があります。その差はいったいどういうところなのか。それを研究する必要があります。それぞれの企業のコンディションは複雑な要素で成り立っているため、一概にまとめることは不可能ですが、継続的に成長する企業には、ひとつの特徴があります。それは「発信力」です。自社の価値や魅力、他社との違いなどを、自分の言葉で発信するコミュニケーション力、です。具体的にいえば、ウェブサイトを活用し、自分たちの活動を自分たちでニュースにして発信していくことを、継続的に行う努力です。そして、その発信力は、決してテクニカルなことではなく、経営者の姿勢、商品の価値、働く社員の魅力など、企業の「本質的な底力」が問われると感じてきました。そして、その企業の本質的な力を引き出していくことが、私たちの仕事でもあると考えてきました。

当時も今も変わらない、ウェブサイトの最も重要なことがあります。それは、「常に育てていくメディア」であることです。企業が生きているように、ウェブサイトも生かしていく。インターネットを通じて、本当の企業や商品の魅力を伝えていく。それは広告や宣伝という概念を超えたものであり、それを私たちはウェブブランディングと定義しています。そして、ウェブサイトは今さらに、中小企業の力強い味方になる強力なツールです。経営者がウェブやデザインを学ぶこと、デザイナーが経営を学ぶこと、その両方が噛み合うことなしに、「ウェブで成果を出す」ことは難しい時代であり、逆にいえば、その取り組みができる数少ないプロジェクトは、必ず成功するという時代でもあると実感しています。

2017-07-10 | Posted in ウェブのことComments Closed 

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